「合コンは営業の練習だ」
広告代理店に勤める友人は言った。
社会人になると、まとまった時間を確保できるのは週末の土日か祝日くらいなもので、なんなら平日よりも早起きして充実させることが使命感、みたいなところがある。
書店のビジネス本コーナーには「できる人は休日も本気を出している」的ニュアンスのタイトルの本が大量に置いてあることにも納得できるようになってきた。
そんな話をしている時のさっきの言葉。
なるほど見ず知らずの人に売り込んで興味を持ってもらうという意味では言い得て妙である。
最近の週末はといえば、ひたすら海外ドラマを観漁るか、行きつけのカフェで郷土菓子を堪能するか、とか何かとお一人様遊びが多かったので、友人の話に乗ってみることにした。
ちなみに、合コンのセッティング方法も、組んでくれそうな友人も身近にいなかったので、「街コン」に行ってみることにした。
ところは恵比寿、駅から徒歩3分もかからないお店が会場だった。
事前に調べたことによると、某ドラマの撮影が行われていたり、パーティによく使われたりと、料理の期待値は高い。
この時点既に、言い訳としての食事に逃げ道を用意している訳である。
会社でもプライベートでも、話が自分に刺さらないと、要するに関心がないと延々食べ続けて全く話を聞いていない、とよく怒られるものだ。この前も、会社の先輩に焼肉に連れて行ってもらった時、お肉を焼く仕事を無心でやっていたら「kentktk7716 くんも、もう肉食べていいよw」と呆れられたばかりだった。
そんなことを思いながら入店すると、テーブルにトランプが置いてあり、男性は黒、女性は赤のカードのある席に着くよう指示があった。
誰もいない席でスマホをいじるのも癪なので、女性2人組が座っている席に行ってみた。
24歳のOL2人組で、1人は広告代理店勤務らしく、例に漏れず「広告代理店って実際のところ、なにやってるの?」と聞いてみた。
営業はやっぱり飲み会が多いらしい。
広告代理店あるあるで場をつなぎながら、それなりに盛り上がっていると人数も集まり開始時間になったらしく、今日のシステムの説明がされた。
どうやら自然と3:3の「シマ」ができあがっていて、時間がきたら男性側が隣にスライドしていくらしい。街コンまで来て言うことではないが、作業的なお見合いっぽさは否めない。
さっきまでいた席は男女比が1:2だったので、別席の2:2のグループと合流するように指示された。これが地雷であった。
合流した男性は24歳の営業と28歳の公務員の二人組。
営業男性はなにやら気合が入っていて、全員に満遍なく話題を振ってくれるのは良いが、深堀りがなんとも中途半端で、よくわからないところで話題を切り替える、いわゆる空回りくんであった。一方の公務員男性は、この営業男性とともにこの会最後まで席をまわることとになるのだが、一言も声を発していなかった。何しに来たんだ。
得てして空回りくんと、地蔵くんの行動を共にしなければならなくなった私は、とりあえずこの中では常識ありますよ感を演出することにした。
空回りくんのようなタイプは、勝手に喋ってくれるから楽なのだが、唐突に、かつ確実に事故になる話題に巻き込んでくるから厄介なのだ。
「僕は泳ぐのが好きで、休日はもっぱら泳いでいるんですよ。kentktk7716 くんは何kmくらい泳げる?」
こちらの趣味が水泳だとは一言も言ってないし、"km"単位で泳げる人はそうそういないだろう。そもそもなぜこっちに話題を投げてくるのか。
下手くそなひな壇芸のようなやり取りをしているうちに、席替えのアナウンスである。
開始までの代理店あるあるで温めておいたツカミも見事に打ち消され、暗雲が立ち込めてながらのスタートとなった。
次の席にいたのは、事務をしているという女性4人組。
ここでも見事な空回りぶりを発揮させてくれて、自己紹介の段階から不穏な空気を醸し出してくれた。自己紹介で変な雰囲気にできるのはかなりやばい。自分一人の説明になぜ3分も使うのか、しかもさっきまで自慢げに語っていた趣味の水泳、なぜ今回は出し惜しみして別の趣味に切り替えたのか。公務員男性は相変わらず喋らない。
このシマが特に問題だったのは、男女比3:4と人数が多かったことで、自己紹介でほぼ持ち時間を消費してしまったことであった。顔も名前も思い出せず、LINE交換したなあと記憶があるというのが関の山である。
そろそろ彼が話す前に主導権を握らなくてはと思った3組目、ここはなかなかの地獄だった。
自分たちを棚に上げていうが、女性グループがイケてない人たちであった。雰囲気と態度含めて。
まず、こういう場にきておいてずっとスマホいじってるし、なんなら別に美人じゃないし、そういうのは美人しか許されませんよーっていうタブーを犯しちゃう人たちだった。
(主導権握らなきゃ…)と思ったのも束の間、心変わりして(ここは彼に空回りさせてやり過ごそう…)と彼のほうをみると、おもむろにやる気がなくなっていた。さっきまでの気合はどこに行ったんだ。
どうやら彼も誰彼となく誘い誘われ、というタイプではないようだ。
ここぞとばかりに無口な公務員男性に話題を振ってみた。
やっと口を開いたと思えば、
「僕の仕事、なんだと思います?」
…めんどくさいやつだ…
いろいろと喋っていて、そこから職業を類推するならまだわかるが、さっきまで沈黙を貫いておきながらこの質問は敵味方をも苦しませる悪問である。
結局誰も正解できず、「警察官です」というまあ意外性のある答えも大して盛り上がらず、このシマだけは席替えまでの時間がとても長く感じた。
、
、、
、、、
このあと、3-4回の席替えがあったが、どこも3回目のシマのような雰囲気で以下割愛。
友人の言っていた「営業の練習」は全く実感できず、自分は営業に向いていないんだなと思った次第である。
下記は、「街コン」そのものへの所感である。
【司会者について】
街コンには司会者もしくは運営者がいて、「残り時間○○分です!」とか「では移動してください!」などと言った文字通り、場を司る役目の人がいる。
今回の司会者、時間通りに始めた割に何分で席替えが行われるのかアナウンスしていなかったり、おばちゃん特有のお節介さがあって、「作業的お見合い感」は最後までぬぐい去れなかった。
【会場について】
序盤で「困ったら食事に逃げよう」と逃げ道を用意して臨んでいたものの、実は退路を断たれていた。
というのも、食事の提供が始まったのは全体終了時間の30分前で、実質30分しか食事を楽しむ時間はないようなもので。
「食事を楽しむ」と書いたが、実際提供されたのはポテト、マカロニ、サラダだけで、どこがイタリアンやねん、という有様。
しゃれおつなレストランで開催しますよ、って触れ込みだった割に、炭水化物だけなのはやりきれなかった。営業の練習とか出会い以前に、食事のレベルにたいそう落ち込んだのは言うまでもない。
【参加費について】
相席屋が流行る今日日、街コンとて例外ではなかった。
男性と女性とでは参加費は3倍以上差があるのは、うまい商売だなーと思った。
社会人になると出会いの場がなくなるとは聞いているものの、今回参加していたのは自分を除けばみんな25以上だったし、この日ほど、ビジネスとは人の弱みにつけ込んだものなのだと感じた日はない。
後日談。
LINE交換した人にメッセージを飛ばしてみたけど、既読すらつかなかった。
営業、失格!